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コラムColumn

無期転換ルールへの対応についてColumn

無期転換ルールの 準備と対策

長期にわたってパートタイマーや契約社員などを有期労働契約で反復更新して雇い続けていると、来年の春(平成30年4月)には、法律によって、これらの社員からの一方的な申し込みだけで無期労働契約の社員に転換しなければならなくなる可能性があります。

有期労働契約の社員を雇用している企業では、できるだけ早期から対策し、直前の混乱を避ける必要があります。

1.無期転換ルールへの対策方針を立てる

■ 無期転換ルールとは? (労働契約法第18条について)

有期労働契約で働く人は全国で約1,500 万人、その約3割が通算5年を超えて有期労働契約を反復更新している実態にあり、ほぼ「自動的に」更新を繰り返しているだけといえますが、雇止めの不安の解消、処遇の改善が課題となっています。そのため、有期契約労働者の無期化を図り、雇用を安定化させる目的で、平成25年4月1日に改正労働契約法が施行されました。
無期転換ルールとは、労働契約法の改正により、有期労働契約が反復更新されて通算5年を超えたときに、労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換されるルールのことです。
厚生労働省が2016年8月31日に設置した「有期契約労働者の無期転換ポータルサイト」より

◆ このルールが施行された平成25年4月1日当時より有期労働契約が反復更新されている場合は、平成30年4月1日を含む有期労働契約の期間から、労働者側に無期転換申込権が発生します。

◆ 通算5年の計算には、6ヶ月のクーリング期間によって通算期間をクーリングするルールもあります。
わかりやすい図解はこちらをご覧ください → 厚生労働省資料

会社のすべきこと①

有期契約労働者の人数、更新回数、勤続年数、担当業務内容などの実態把握が必要です。
長期契約の場合、すでに無期転換権が発生しているといったケースもあります。

2.無期転換権が発生した場合の準備をする

◆ 無期転換の申し込みは、口頭でもよく、これにより会社は申し込みを承諾したものとみなされます。

会社のすべきこと②

口頭での申し込みのみではトラブルになりますので、「申込書」と「承諾書」を整備して社員に周知する必要があります。

人事部長 殿
       無期労働契約への転換申込書
 私は、労働契約法第18条に基づき、私と貴社の労働契約を
期間の定めのない労働契約へ転換する申し込みをいたします。
 
申し込み日  平成  年  月  日
申込者             印
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
       殿
      無期労働契約への転換申込み受理の通知
 貴殿より、無期労働契約への転換申込書を
平成  年  月  日受理しましたので通知します。
               平成  年  月  日
                  ○○○株式会社
               人事部長 △△△ 印
 

◆ 無期転換後の労働条件は、別段の定めがない限り、雇用期間以外は申込時の有期労働契約と同一になります。例えば次の通りです

有期雇用時 無期転換後
雇用期間 有期 無期
定年 なし なし
勤務場所 A社B事業所 A社B事業所
始業・終業 午前9時から午後18時 午前9時から午後18時

以下省略

→ 正社員以外への無期転換後の労働条件に、定年が「なし」は問題かもしれません

◆ 例えば、別段の定めをして、定年を60歳とすること。さらには、転勤ありとすることなども可能です。

有期雇用時 無期転換後
雇用期間 有期 無期
定年 なし 60歳
勤務場所 A社B事業所
転勤なし
A社B事業所br>転勤あり
始業・終業 午前9時から午後18時 午前9時から午後18時

以下省略

会社のすべきこと③

「無期転換後の就業規則」を整備して、必要に応じ、別段の定めを明確にする必要があります。
無期転換後に正社員とする場合は、正社員の就業規則にその旨を追記します。

◆ 正社員以外での無期転換社員に、正社員の就業規則が適用されるかもしれません。
例えば、正社員の就業規則が、「有期雇用契約の社員には適用しない」等となっていたら、無期転換後は正社員の就業規則が適用されます。

【正社員の就業規則の規定例】
(適用範囲)
第○条 本規則は、すべての社員に適用する。ただし、パートタイマー、嘱託社員などの有期雇用契約の社員には適用しない。

◆ 無期転換後に、新しい正社員(勤務地限定、職務限定、短時間勤務など)の社員区分を設ける場合は、これらを除外して別規定に委任する必要があります。

【正社員の就業規則の規定例】(変更後)
(適用範囲)
第○条 本規則は、すべての社員に適用する。ただし、パートタイマー、嘱託社員などの有期雇用契約の社員及び労働契約法第18条により無期雇用に転換した社員には適用しない。本規則が適用されない社員については、別に定める有期契約社員就業規則または無期契約社員就業規則を適用する。
会社のすべきこと④

新たな社員区分を設ける時は、就業規則の適用範囲を社員区分毎に明確に規定する必要があります。

3.無期転換ルールを回避する

1.会社側からの阻止(雇い止め)

・長期で反復更新してきた社員を無期転換権が発生する直前で雇い止めすることには大きなリスクがあります。
・これから雇い入れる労働者との有期雇用契約に更新上限を定めることは許されますが、例外なく運用することが必要になります。

2.法律による回避(特例措置)

有期特措法により、高度専門職と継続雇用の高齢者は労働局長の認定で延長・回避できます。
研究開発力強化法により、研究者・技術者・教員は、10年まで猶予されます。

3.合意による回避(転換権の放棄)

・そもそも、無期転換を望まない社員も存在しますので、合意も可能とする学説もあります。
・通達では、法律によって発生する権利を事前に放棄することは、公序良俗に反し無効とされています。

4.積極的な無期雇用による回避(積極的転換)

・無期転換権が発生し、いつ行使されるかわからない状態は、人材配置計画を不安定なものにします。
・会社側が積極的に無期転換を行い、状態を確定することは、キャリアアップ助成金などの政策で奨励されています。

■ 会社側からの阻止(雇い止め)

【従来から雇用している社員】

◆ 以下のような雇い止めには高いリスクがあります。

① 有期労働契約が反復更新されて無期労働契約の解雇と同視できる場合
・契約が自動更新の場合 など
(例)将来も継続した担当業務が確保されており、これまでの有期労働契約の更新時も一方的に更新通知を行なっているだけの場合

② 労働者が更新を期待する合理的理由が認められる場合
・期待を持たせる使用者の言動
(例)社員の募集時に、人事担当者が「長期的に働いてもらいたい」と言った甘言で勧誘していた場合
・更新回数が多い社員がいる など

このような場合、実質的に解雇と同じ扱いになる可能性が高いので、以下の事情が必要になります。

① 客観的に合理的な理由があること
② 社会通念上相当と認められること

参考:労働契約法第19条(有期労働契約の更新等)
有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
(1)当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること
(2)当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

参考:雇い止めが認められた判例 本田技研工業事件(東京地裁平成24年2月17日判決)
11年の間、半年間から1年間の有期雇用契約が更新されていたY社の従業員Xは、最後の有期雇用契約(契約を更新しない旨の表示がある契約)の期間満了を理由に、雇い止めされた。Xはこれを不服として雇い止めの無効と慰謝料を請求したが、裁判所はこれを棄却した。
理由
(1) 契約の更新手続では、前の契約期間中に新契約書を作成しており、自動更新でない
(2) 約1年ごとに契約を終了させた上で、再入社の選考手続を踏んでいた
(3)リーマンショックによる部品生産の激減等によって期間契約社員を全員雇止めにせざるを得ないことについての説明会を丁寧に実施していた
(4)上記の事情の下、Xは、契約を更新しない旨記載されている雇用契約を自由意志の下で締結した
(5)退職時も、清算金や慰労金を受領している

会社のすべきこと⑤

従来から契約の更新を続けていた社員の雇い止めには、解雇と同様の回避努力をする必要があります。

会社のすべきこと⑥

契約更新で、契約を更新しない旨記載されている雇用契約を結ぶには、前もって充分な説明をする必要があります。慰労金などを支給する場合は、契約書上に明記します。

雇用契約書の例
 
      雇用契約書(有期雇用社員)
 
契約の期間: 期間の定めあり( 年 月 日〜 年 月  日)
     契約更新はしない
     契約更新をしない理由は、会社の経営状況による
     なお、詳細は  年  月  日説明会にて通知済み
 
  (中 略)
 
備 考: 退職慰労金として、退職日に5万円を支給する。
【これから採用する社員】

◆ 有期労働契約に、更新上限の規制を入れることは許されます。

有期雇用社員就業規則の例
 
(有期労働契約の期間)
第○条 有期労働契約の期間は、原則として1年を超えないものとする
2. 前項の雇用契約は、原則として更新しない。ただし、会社が必要と判断した時に限り、最初の契約開始から3年までを上限に、更新することがある。

◆ 有期労働契約の更新上限の規制は例外なく徹底して運用しなければなりません

雇用契約が継続することを期待させる人事部長の甘言などで、雇い止めは認められなくなった判例があります。
(カンタス航空事件 平成13年6月27日東京高裁判決)

会社のすべきこと⑦

契約の更新上限は、就業規則などで明確化して、運用を徹底する必要があります。
例外を設ける場合は、社内の転換制度を設け、明確な基準のもとで運用します。

(無期雇用への転換)
第○条
勤続○年未満の者で、本人が希望する場合は、無期雇用に転換させることがある。
2 転換時期は、毎年原則4月1日とする。
3 所属⻑の推薦のある者に対し、面接及び筆記試験を実施し、合格した場合について転換することとする

転換制度の導入によって助成金を受給できることがあります。(キャリアアップ助成金)

4.労働条件の合理性確保(均衡処遇の配慮)

(厚労省 施行通達 平成24年8月19日 基発0810第2号)

無期労働契約への転換にあたり、職務の内容などが変更されないにもかかわらず、無期転換後の労働条件を従前よりも低下させることは、無期転換を円滑に進める観点から望ましいものではない

◆ 均衡処遇は、裁判のリスクです。
◆ 最近は、継続雇用の高齢者などが、従来と同じ仕事をしているにもかかわらず、賃金が低下した場合等に裁判が多発しています。

参考:労働契約法第20条(不合理な労働条件の禁止)
有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

参考:パート労働法第8条(短時間労働者の待遇の原則)

事業主が、その雇用する短時間労働者の待遇を、当該事業所に雇用される通常の労働者の待遇と相違するものとする場合においては、当該待遇の相違は、当該短時間労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

参考:パート労働法第9条(短時間労働者に対する差別的取扱いの禁止)

事業主は、職務の内容が当該事業所に雇用される通常の労働者と同一の短時間労働者(第十一条第一項において「職務内容同一短時間労働者」という。)であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されると見込まれるもの(次条及び同項において「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」という。)については、短時間労働者であることを理由として、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、差別的取扱いをしてはならない。

◆ 社員区分間の処遇格差は
① 業務内容の差異
② 責任と権限の範囲
③ 人材活用の仕組み、配置変更の範囲
に照らして合理性を説明できるようにします。

◆ 等級制度の見直し
上記①、②については、等級制度が「職能(人)中心」の場合に「職務・役割中心」に転換することで、合理的な体系化を図ることができます。

◆ その他、賃金水準については③による合理性の説明ができる場合があります。
限定正社員の区分が通常使われます。高齢者の継続雇用などでも既に制度化されている企業も増えています。
「有期雇用」という不利益を補填する賃金上乗せ「有期プレミアム」がある場合があります。派遣事業のように、事業存続のためには、「雇用リスク」を最小限の賃金低下によって埋めあわせることが必要な場合があります。

会社のすべきこと⑧

処遇に格差が生じる場合には、その合理性を説明できるようにしなければなりません。
社員区分間の異動も柔軟にできるような仕組みも検討すべきです。

→ 人手不足、国際化といった変化の中、公正な環境のもとで多様な人財を活かす仕組みが一層求められています。